4.3..松浦亜弥という侍が辿り着いた場所



ネタバレあり



今からちょうど1年半前、ハロプロの歴史に大きく刻み込まれる事となった
素晴らしいコンサートがあった。「松◇クリスタル◇代々木スペシャル」。
アイドル・エンターテイメント集団・ハロープロジェクトが長年に渡り築き上げてきた
アリーナ規模でのコンサートの集大成がそこにあった。
代々木以降、あれを上回るスケールのコンサートに私はハローの現場で出会っていない。
思い入れの部分を含めればそれ以上の感動を貰ったコンサートはたくさんあるが
純粋にエンターテイメントショーの部分に特化して見た場合、やはりあのコンサートが
別格だったと今でも思う。 (当時の感想)


代々木後の松浦亜弥。
デビューからの自身の音楽活動に一区切りつけるべく、2005年初頭に
ベストアルバムをリリース。
そのベストアルバムを引っさげて春にツアー「101回目のKISS〜HAND IN HAND〜」を
スタートさせる。
シングル曲を中心にしたグレイテストヒッツ的な内容であり、今までの総括的な内容であった。
このツアーと平行して、「後浦なつみコン」も実施されていた事もあり、
私としてはこのコンサートで何か新しい松浦亜弥を見出すことはできなかった。
唯一の収穫と思えたのが、メロン記念日と共にアカペラで披露した「ドッキドキ!LOVEメール」。

代々木のライブを経た松浦亜弥とそのスタッフ達が次にどんな凄い事を見せてくれるのか
期待が大きかったこともあるが正直言うと肩透かしだったというのがあの時の気持ち。
その後は約半年間に渡るパーティー巡業ツアーを行うことに。
途中、姫路城での凱旋コンサートもあったが、規模は代々木を上回る物ではあったものの、
何か新しい物が出来上がったという物ではなく、ベスト盤リリースから続くある種の「区切り」
的な意味合いが強かったコンサートだったと感じた。


松浦亜弥という人にとって2005年はどんな年だったのだろうか?
単独ツアーは春の1本のみ、CDリリースはベスト盤とシングル2枚。
2005年の活動の中で彼女にとって一番大きかったのはハロプロパーティーだったのでは
ないかと思う。
今までとコンセプト自体がまったく違うライブ。己を押し殺し、周りを盛り立てる役に徹する事も
多かった。ステージ上で自由奔放に暴れる仲間達に刺激された部分もあったと思うし、
団体活動をやったからこそ、一人で歌うステージの大切さを再認識した事もあったと思う。

年末に発売された「ヤンマガ」の中で2005年の思い出として
「友達と呼べる人がたくさんできました。」と発言していた。
その友達の中には、パーティーを一緒に廻ったあの6人も当然含まれているのだろう。
精力的に活動自体は行っていたが、彼女にとっての2005年は今後も自身の音楽活動を
続けていく上で貴重な充電期間になったのではないかと思う。


そんな2005年を経た松浦亜弥が2006年にどのような活動を見せてくれるのか。
松浦亜弥は彼女の置かれた立場の中では頂点を極めたと言っていいと思う。
頂点を極めた人が次にどんな道に進んで行くのか、色々なパータンがある。
自身が築きあげた王道パータンをまっとうしていく人、次のステップとして海外を目指す人、
まったく新しい事にチャレンジして行く人などなど。
彼女の場合は立場上すべてを自分の気持ちだけで決めることはできないだろう。
いわゆるアーティストとは違い、アイドルという職業についている宿命であると思う。

年明けの彼女のラジオをたまたま何度か聞く機会があった。
その中で「観客のみんなに生声できちんと届くようなミュージカルをしたい。」といった
発言があった。「次のコンサートは自分のアイデアも取り入れたい」との発言もあった。
その彼女の発言がなんとも頼もしかったしうれしかった。
一定の枠の中に閉じ込められている立場であるだろう彼女が、それでもきちんと自分が
松浦亜弥としてやりたい事をやろうとしている、流されてない、強い人だなと感じた。


「砂を噛むように・・・NAMIDA〜STUDIO LIVE〜」の発売が決まり、更に期待は高まった。
2006年、彼女が進んで行くべき道がハッキリと見えてきた。
世間からのイメージ、ファンから求めてられてる物、ハロープロジェクトという枠組み・・・
マイクという刀をしっかりと手に握り、それらをバッサバッサと斬り刻み、
一人で突き進んで行く彼女の姿が目に浮かぶ。





2006年4月1日 市原市民会館 「〜OTONA no NAMIDA〜」初日。

「渡良瀬橋」のカップリングである「I LOVE YOUの続き」でスタート。
ステージ上の幕が上がるとすでに中央に彼女は立っている。
いわゆる登場シーンは無し。演出いらず、歌で勝負するといった所であろうか。
2曲目は「奇跡の香りダンス。」。昨年のツアーではメロンが歌い、
パーティーでは歌わず、エルダーコンでは出だしをなっちが歌うといった事が
続いたため、純粋にこの曲を彼女が歌う姿は久しぶりに見る。
その後も「SHINE MORE」と珍しいナンバーが続いた。
このあたりの選曲まで本人の希望が入ってるのかはわからないが、
出だしはヒットチューンで飛ばしてくると思っていただけに、
非常に斬新な感じで進んで行った。

続いてはカントリー娘。を迎えてのヒットメドレー。
「夏男/桃色/めちゃホリ/I know」などといったライブキラーチューンを一まとめ。
その後はカントリー娘。の曲が2曲。ここまでの時間が正味35分。

ここからが今回のメイン。
背中がUの字にパックリ開いた青いドレスを着た彼女がステージに登場。
昨日は非常に緊張して朝5時まで寝れなかったのでヨーヨーして遊んでたなどの
MCが続く。

「なんでこんなにいっぱい緊張しているかと言うとですね・・・ここからなんです。」

すると後ろからピアノの音が聞こえてきて、ステージ中央部分のセットが回転し始める。
ステージが反転すると、ピアノを弾いてる女性と、その横に椅子が一つ置いてある。
私も座って歌うのでみなさんも座ってくださいと一言。

軽やかなピアノの伴奏に乗って歌い出したのは「ね〜え?」。
原曲とはかなり違ったアレンジを加えて矢野顕子のライブでも見てる気分になってくる。
「あなたが好きだからよ」の部分では「かぁ〜らよぉ〜」と歌い上げるような歌い方をしたり
原曲とはまったく違い歌の迫力を感じる事ができた。

曲が終わると客席から大きな拍手。ライブからリサイタルに完全に変わっている。

「LOVE涙色」。今までもTV番組などで生バンドで歌ったり、違うアレンジで歌った事は
何度かあった。
今回のバージョンは今までで一番素晴らしかった。
ピアノの伴奏が止まり、彼女の歌だけで始まる。

あぁ きっぱり あなたの 事 なんて わすぅ  れてる

一言一言、彼女の声だけが会場に響き渡る。
観客もまったく声を出さない。
ディナーショーのあの密室で行われるライブとは違い、
通常のホールで1000人程度の観客が見てる中でのこれは
非常に鳥肌が立つ瞬間であった。
ワンコーラスをほぼ丸々歌声だけで聞かせ、その後ピアノが絡んで
歌い続ける。

歌で感動するという体験はそうできるものではないけど、
今まで親しんで来た曲が、素晴らしいアレンジに変わり、
素晴らしい歌声で聞く事ができるというのはめったに味わうことのできない体験だった。

自分の歌をきちんと聞かせたい、伝えたい。
彼女が今やりたい事、それが見事に表現された空間だった。
この後はバイオリンなどが加わり、更に松浦ワールドが続いていく。

「初めて唇を重ねた夜」。
1stアルバムに収録された松浦ファンにとっては思い入れのあるであろう曲。
それを生演奏をバックに聴ける最高のシチュエーション。
あの頃の少女から大人に変わった彼女は歌い終わりにこう語る。

ファーストツアーの時は大人っぽく見せようと大きく歌おう大きく歌おうと
背伸びしながら歌っていた気がすると、

「今日はね・・・今の私で歌いました。」

かっこいいねぇ〜!大人だねぇ〜!深いねぇ〜!・・・うん、これ以上は何も言うまい。


本編ラスト「砂を噛むように・・・NAMIDA」では、彼女が靴を脱いで素足で歌う。
「誰かのマネしてるわけではないよ(笑)」と言いながら、裸足になって
ステージに立ち歌う姿は、さっきまでの大人っぽい彼女とはまた違い、
歌う事が大好きな一人の女の子といった感じで、とてもかわいらしい感じだった。

アンコールでは「トロ恋」を最後に歌い、間奏の場面でピアニストの横に座り、
あややが一緒にピアノを弾く場面がある。
頭をお団子縛りにして、楽しそうにピアノを弾いてる姿を見たら、
私の大切なあの人の姿がそこに見えたって事は、胸の中にしまっておこうと思う。


前半35分、中盤のアンプラグドコーナーが35分、後半が30分、アンコール2曲。
ちょうどいいバランスだったと思う。初めての試みで中盤のコーナーが更に長かったら
空気がだれる事もあるだろうし、もっと短かったらただのワンコーナーで終わってしまい
今回のコンサートの意味合いが違ってしまった可能性もある。
これから新たなライブ活動を始めていくにあたっては、ファーストツアーとしては
申し分の無い構成だったのではないかと感じた。

これから参加する人へのアドバイスとしては、前半部分だけで相当汗をかくので、
そのままで見てると中盤で寒くなって風邪ひく可能性があるということ。
特に前半ラストは、ヲタ殺しの「ハニーパイ・フルコーラス」なので、
ハニぱることが大好きな貴兄は、終わった後にその場でしゃがんで
すぐにTシャツ着替える事をおすすめします。


松浦亜弥という歌手が新たな事にチャレンジし、それを心から楽しんでる姿が見れる、
とても素晴らしいコンサート。まだまだツアーは続くので見に行く予定の無い人も
ぜひ足を運んでもらいたいと思います。

あっ、あと付け加えると、みうなが凄い。
みうなの存在はこのコンサートで諸刃の剣になるでしょうw