4.24.アップ・トゥ・ボーイ
4/23(火)
とても目覚めの良い朝だった。朝といっても時間は午後12時。
いつものように、煎れ立てのカプチーノを口にしてウィンストンを一服吸う。
「ふぅ〜〜。今日だな...。」
今日が運命の日だということを男は当然知っている。
去年の暮れから話題にのぼり、1月に発売と言われながら5月までのびのびになっていた「例の物」。
その「例の物」の一部が今日遂に公開される。
ウィンストンを口まで運ぶ白魚のような手が心なしか震えている。
「くっ!俺も小心者だな。震えてやがる。」
男は喜びに震える自分の手を愛しく見つめていた。
ベルサーチのスーツに着替えて、ダンディな紳士と化した男はいつも通り
家を出る前にビデオの予約を始める。
ハローキッズ、MUSIX、娘。通信、美少女教育U、Mの黙示録、FACTORY。
いつになく予約数の多い日でいつもなら、「ムキーーッ!」とする所だが
今日の彼はいたって冷静だ。
3台のビデオデッキを駆使して、きちんと予約を終わらせた。
男はGコード予約が嫌いだ。
何故か?保存用ビデオに無駄なCMを入れたくないからだ。
そのためにいつも手動で入力をする。美少女教育Uであれば24時46分〜24時53分まで。
1分足りとも無駄なものは録画したくない。この男のこだわりだ。
予約完了した後に予約確認も忘れない。
何故か?以前、帰宅後に楽しみにしていた「モー。たい」の変わりに「坂本金八」が録画されていたからだ。
男は同じ過ちは二度起こさない。
FACTORYが野球中継で延長する可能性も忘れてはいない。きちんと30分余分に予約している。
そうゆう場合の30分はケチらない。
FACTORYはCS放送で見ているが、ひょっとしたらカット割が違うかもしれない!という事で
きちんと地上波放送も録画はする。これもこの男のこだわり。
ハンバーガーを食べる時にピクルスを抜いて食べる。これもこの男のこだわり。
どこから見てもいつになく冷静な彼に見えたのだが、やはり今日は少し違ったみたいだ。
予約を終わらしてTVを消す瞬間、彼の目に映ったものは
アイ〜ン!アイ〜ン!アイ〜ン!アイ〜ン!アイ〜〜ン♪
Viewsic EXP.13:00〜13:30 一曲目・アイ〜ン!ダンスの唄
その瞬間、男の頭は真っ白に。
ねぇ、ねぇ、これが本当のトランス?トランス状態?ねぇ、ねぇ!
男は気を取り直して、職場へ向かった。
14時14分。携帯に一人の男からメールが入る。
「みた!?アップトゥーボーイ!!鬼や!鬼萌えや!!」
そう、このキチガイじみた書き込み(絶対的幸福論)をしている男からのメールだ。
不覚!!先を越された!!
いつもなら雑誌関係は必ず先に買って自慢するハズなのだが、今日の彼は本気だった。
仕事帰りではなく、仕事中に買いに行ったようだ。
このメールのお陰で仕事が手につかなくなった男は、適当な理由をつけて外出することに。
向かう先は「TSUTA●A」。
そこらへんのチンケな本屋に行って、くそガキどもの手垢まみれになった本なんて買えやしない。
いつも山積みに置いてあるあの本屋に行かなければ!これもこの男のこだわり。
吉野家では特盛りを頼まないで並を2杯注文する。これもこの男のこだわり。だって絶対にこっちの方が特だもん!
本屋にたどり着いた男は入り口付近で深呼吸を始めた。(スーツ姿のまま)
本が置いてある場所は完璧に把握してある。
メンズ・マガジン・コーナー。そして、ナイタイの隣。定位置。寸分の狂いもないハズ。
入り口からの距離、およそ15m。時間にして5秒。
しかし、今日はその5秒が30秒にも60秒にも感じられる。
心臓がドクドクと鳴る音が周りの客に悟られるんじゃないかと思うぐらい男は緊張していた。
いつしか男は小走りでその場所へと向かっていた。(スーツ姿のまま)
ない...。
いつもの定位置にない。そこに積み上げられていたのはこの女の838円の写真集(本日発売)。
しまった!ここを定位置と思ってしまった男のミスだ!
この前もこの女の880円の写真集がここに積まれていたのを男は忘れていた。買ったくせに。
どこだ!どこに隠した!!っていうか、売り切れ?(号泣)
店内を走り回る男。(スーツ姿のまま)
立ち読みしてる女子供をはねのけて必死の形相で探し回る男。(スーツ姿のまま)
ない!どこにもない!!
汗だくになりながら店内をくまなく探したのに見つからない。
ひよこクラブやたまごクラブが置いてある所まで探したのにない!!
店内で呆然と立ち尽くしてる男の耳にある言葉が聞こえてきた。
「かごつじ・・・」
ん!?
「加護辻じゃん。」
レジ横に居る中学生っぽいくそガキどもがレジ前の台に積まれていた本を手に取って会話を交わしている。
キタ━━━━━(;`Д´)━━━━━ !!
レジ前かYO!!
まさかレジ前に置かれてるとは思いもしなかった男は、急いでその中学生のたむろしているレジ前へ向かった。
ガキどもが読んでる1冊を除くと、残りは5冊。
男はなんの躊躇もなく5冊をやさしく力強く愛情を込めて手に取った。(スーツ姿のまま)
そしてそのまま横のレジに差し出した。(スーツ姿のまま)
男は同じ雑誌を何冊も買うようなこだわりは持っていない。
なのに何故今日は5冊もレジに差し出したのか?
この亜依すべき本をこいつらのようなくそガキどもの手に渡してたまるか!即座にそう思ったのだ。
誰にも渡すもんか!俺が独り占めだ!テメーラ!
これもすべて亜依するがゆえの行動だ。
「3350円です。」
男は慣れた手つきでサイフからお金を出し、いつものように一言。
「領収書お願いします。」
別に「自分の物ではないよ!」とごまかすためではない。これもこの男のこだわりだ。
満足げな顔で出口へ向かう男の目に、ある青年の姿が映った。
メンズ・マガジン・コーナーで右往左往している青年の姿が。
「悪いな。ちょっと遅かったぜ!」
男は心の中でそうつぶやいて店を出た。
達成感に満ち溢れたとても男らしい後姿だったのは言うまでもない。
もうこの感動は言葉になりません。
真の発売日が今から怖い(素)
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